【TED20】優れたリーダーはどうやって行動を促すか

TEDサムネイル
優れたリーダーはどうやって行動を促すか
講演者サイモン・シネックは、冒頭で次のような質問を投げかけます。

  • なぜアップルは、競合他社より革新的であり続けられるのか
  • なぜキング牧師は、市民運動を指導できたのか
  • なぜライト兄妹が、有人動力飛行を実現できたのか

確かに不思議な話です。

現代には、コンピュータ会社がたくさんあります。市民運動以前のアメリカでは、大勢のアフリカ系アメリカ人が苦しんでいました。有人動力飛行を実現させるために、多くのグループが研究を続けていました。

なぜアップルなのでしょう?
なぜキング牧師なのでしょう?
なぜライト兄弟なのでしょう?

サイモンは、こうした人を動かす偉大な指導者や組織には、共通する思考パターンがあると主張します。

彼は「Why(なぜ)」「How(どのように)」「What(なにを)」を含んだ三重丸を紙に書きます。

大勢の人は、物事を考え、行動し、伝えるときに、この円の外側から内側へとアプローチを試みます。

しかし、飛び抜けたリーダーや組織は逆に、この円の内側から外側へとアプローチするのです。

すなわち、次のような違いがあることになります。

大勢の人 What(なにを)→How(どのように)→Why(なぜ)
優れた指導者や組織 Why(なぜ)→How(どのように)→What(なにを)
人は”Why(なぜ)”に動かされる
サイモンは、コンピュータのCMを例に挙げます。What(なにを)を重要視する一般的な宣伝と、Why(なぜ)を重要視するアップルの宣伝を比較するためです。あなたは下記のAとB、どちらに興味が惹かれるでしょうか。
A 「我々のコンピュータは素晴らしく、美しいデザインで簡単に使うことができます。とてもユーザフレンドリーな製品です。ひとついかがですか?」
B 「我々のすることはすべて、世界を変えるという信念で行っています。違う考え方に価値があると信じています。私達が世界を変える手段は、美しくデザインされ、簡単に使えて親しみやすい製品です。こうして、素晴らしいコンピュータが出来上がりました」
ご察しの通り、Aが一般的な宣伝、Bがアップルの宣伝です。Aの文章は陳腐的で、最初からその商品に興味がある人の関心しか惹きません。

Whatの強調
Whyの強調

いちど文章を「What」「How」「Why」で色分けしてみましょう。

A 我々のコンピュータは素晴らしく、美しいデザインで簡単に使うことができます。とてもユーザフレンドリーな製品です。ひとついかがですか?
B 我々のすることはすべて、世界を変えるという信念で行っています。違う考え方に価値があると信じています。私達が世界を変える手段は、美しくデザインされ、簡単に使えて親しみやすい製品です。こうして、素晴らしいコンピュータが出来上がりました
こうした文章の要素分けまでは、サイモンは行っていませんが、それは上記のように分類できるでしょう。Bの流れは、「信念(Why)が、美しいデザインと使いやすさを備えて(How)、パソコンとなった(What)」と表現することができます。円の内側から外側へ向かっていることがわかるでしょう。対してAは、商品自体(What)の説明ばかりなので、すべてがWhatに分類されます。信念には一切触れていません。

今日、信念を踏まえたプロモーションを行っている企業がいくつあるでしょうか。ほとんどの企業は、その商品の機能的優位性(What)を説明することこそが宣伝と考えているようです。しかし一部の企業は、会社としての信念や目的(Why)を重要視したプロモーションを行っています。Appleもそうですが、Googleなども例に挙げられるでしょう。

GmailやGoogleマップなどについて、彼らが「この機能がすごくて~」と説明したことがあるでしょうか?Googleはそのトップページで「Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです」と掲げています。これもWhyを強調した文章で、業績(What)だけを伝えるものより人の興味を惹きます。

[画像]Googleについて(https://www.google.co.jp/intl/ja/about/)

Whyが私達の脳に行動を促す
サイモンは上記(Whyが人の関心を惹くこと)が、生物学の原理に基づいていると説明します。心理学ではなく、生物学が関与するのです。私達の脳について、少し学びましょう。

人の脳の断面は、3つの主要な部位に分かれています。大脳新皮質(Cortex)大脳辺縁系(Limbic System)脳幹(Brain Stem)です。

人に行動を促すためには、このうち大脳辺縁系を説得しなければなりません。人に説明をされたとき「頭では理解できたけど、なぜか納得出来ない」ということはありませんか?

[画像]What are the social and emotional needs of the Brain?(Thoughtful Learning)
言語処理をするのは大脳新皮質ですが、意思決定は大脳辺縁系が行います。そしてこの大脳辺縁系は、言語能力を持たないのです。「なぜか納得出来ない」の「なぜか」が説明できない背景には、こうした理由があります。

大脳新皮質 Whatに対応。合理的で分析的な思考と言語を司る。
大脳辺縁系 Whyに対応。感情、信頼、忠誠心、行動を司り、全ての意思決定を行う。
脳幹 最も古い脳の部位。生命活動の維持を司る。

Whatの強調で大脳新皮質を説得することはできますが、大脳辺縁系の説得にはWhyを強調する必要があり、それが実際の行動に繋がります。優れた指導者や組織が大勢を魅了するのは、彼らの主張(Why)が、私達の意思決定を司る脳の部位に、直接的に作用しているからなのです。

強力なWhy「大義・理想」
ライト兄弟
20世紀初頭は「有人動力飛行」の時代です。様々なグループがそれを実現させるために実験を行っていました。
中でも有力だったのが、サミュエル・ラングレーという人物。潤沢な資金、優れた人材、絶好の市場環境に恵まれた彼こそが、有人動力飛行を実現させる人物と当時の人は考えていたことでしょう。しかし御存知の通り、世界で初めて有人動力飛行を成功させたのは、ライト兄弟でした。なぜサミュエルではなく、ライト兄弟がそれを実現させることができたのでしょうか?
[画像]Orville Wilbur Wright(Wikipedia public domain)
ライト兄弟の実験環境は、サミュエルとはおよそ対照的でした。資金は自分たちの店から持ちだしたもので、チームの誰一人として大学を出ていません。そして彼らは「有人動力飛行が世界を変える」という大義と理想のために実験に取り組んでいたのです。この点も、富と名声を求めたサミュエルとは対照的です。

あらゆる点で劣勢な状況にありながら、兄弟チームの実験に掛ける熱意は飛び抜けていました。彼らの強烈な大義、強力なWhy(世界を変えるため)は、多くの人を惹きつけ、1903年12月17日、彼らは初飛行を成功させ、本当に世界を変えてしまいました。

「なぜ」はこのように、強烈な影響力を持ちます。優れた指導者や組織は、「なぜ」を伝えて人々の大脳辺縁系に刺激を与え(結果的に)、感情・信頼・忠誠心を高めるのです。

キング牧師
スピーチの最後にサイモンは、キング牧師の例を挙げます。
彼の有名なスピーチでは「I have a Dream(わたしには夢がある)」という言葉が繰り返されます。

これはWhat(アメリカの何を変えるか)ではなく、Why(キング牧師自身の理想・大義)が人々の共感を呼ぶ最適な例です。

まとめ
私達がその指導者や組織を応援するのは、そうしなければならないからではなく、そうしたいからです。私達は、アップルのためにアップル製品を購入するわけではありません。聴衆は、キング牧師のために彼の演説に熱狂したわけではありません。人々は、ライト兄弟のために有人動力飛行の実験に協力したわけではありません。

すべては自分自身の「Why(理想・大義)」のためです。大脳辺縁系が全ての意思決定を司ることは先述しました。自分自身のWhyを共有することによって、人々の内側から彼らを行動に促すのです。

最後に
この「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」は、私がTEDを積極的に利用するキッカケとなったトークです。日本語翻訳をしてくださったNatsuhiko Mizutani氏に感謝です。

TEDの動画には様々な発見があります。まだまだ自分が知らない面白いことが、世界にはたくさんあることを教えてくれるのです。【TED20】シリーズを継続すると同時に、これからもTEDの興味深い講義を積極的にシェアしていければと思います。TEDはまだ日本での知名度が十分ではないので、微力ながらこの「Idea Worth Spreading」に協力します。
[amazonjs asin=”B00LUKIF4W” locale=”JP” tmpl=”Small” title=”TED 驚異のプレゼン 人を惹きつけ、心を動かす9つの法則”]

TED20

人生に刺激を与える20のプレゼン
日々様々なプレゼン映像を提供しているTEDには、“The most popular talks of all time”と題するプレイリストが存在します。とりわけ多くの人に視聴された20のプレゼンです。これらは何年も前に録画されたものですが、その面白さは今でも変わりません。

【TED20】シリーズでは、このプレイリストに収録される20本の動画について、新たに図などを交えながら、その要点を改めて紹介します。これをキッカケにTEDに興味を持ってもらえれば幸いです。