こうスピーチを始めるのは、社会心理学者エイミーカディ。
彼女は、自分の姿勢を変えるだけで、人生を大きく変えられる可能性があると主張します。姿勢とはつまりボディランゲージ(非言語動作)のことです。会話中の身振り手振りや、笑顔や視線、握手などもこれに含まれます。
私達は日頃、初対面の人と話す前に、非言語動作からその相手について大まかな推測をしています。背中が曲がっていて、相手の目を直視できない人は、採用や昇進やデートの場面でも、あまり良い印象を相手に与えることはできないでしょう。アレックス・トドロフという人物は、候補者の顔を一秒見た時の判断によって、議員選や州知事選の結果を70%の精度で予測できることを示しました。
しかし、(トドロフの例は置いておくとして)これはあまりに常識的な話ではありませんか。姿勢が良ければ良い印象が与えられるだなんて。そんなの基礎的すぎてマナー講座本でさえ説明を省くほどです。なぜこのようなスピーチが傑作揃いのTED Talksにおいて上位にあるのでしょう。
待ってください、面白いのはここからです。
エイミーは、このような非言語行動が当然第三者に影響を与えることを説明したうえで、それがその行動をする私達の感情や生理にまで強く影響すると説明します。
ジェシカ・トレーシー[Jessica Tracy, コロンビア大学教授]の研究では、運動競技で勝った時には、目を見える人も、盲目の人も、同様に体を広げるポーズ(要するに、ガッツポーズ)をすることが明らかになっています。”The spontaneous expression of pride and shame: Evidence for biologically innate nonverbal displays(誇りと恥の自然表現:生まれながらの非言語表現の証明)”[リンク(PNAS: Proceedings of the National Academy of Science)]と題された論文です。タイトルからも分かる通り、非言語表現は生物学の領域です。非言語表現は、生まれながら備わっているものなのです。
では、その逆はどうでしょう。人は、体を大きく広げると「力」を感じるでしょうか。体を小さくすると「無力」を感じるでしょうか。
実は、姿勢と精神は相互作用の関係にあります。私達は、楽しいと思う時に笑いますが、自分の指で口角を引き上げてもまた楽しいという感情が生じるのです。感情が表情を変化させるのと同様に、表情が感情を変化させるのです。
しかし、これは本当でしょうか。なんだか胡散臭い説明に聞こえますね。しかしエイミーは、これを裏付ける実験を行っていました。
彼女が行った実験は面白いものです。まず研究室に人を集め、被験者の唾液を採取します。それから被験者を「力強いポーズ(足を机にのせ、手を頭の後ろで組むなど)」と「無力なポーズ(体を小さくするなど)」のグループに分けて、その姿勢を2分間取らせるのです。それから彼らにギャンブルをさせ、最後に改めて被験者の唾液を採取します。ポーズ(姿勢)が心(リスク耐性)にどのような作用をもたらすかを測る実験です。
この結果、「力強いポーズ」をした人の86%が賭けに出たのに対し、「無力なポーズ」をした人は60%しか賭けに出ませんでした。
更に興味深いことに、この2分間のポーズをしただけで、テストステロン(支配性のホルモン)とコルチゾール(ストレスのホルモン)の値にも大きな違いが出ました。
ポーズ | テストステロン | コルチゾール |
力強い | 20%増加 | 25%減少 |
無力 | 10%減少 | 15%増加 |
力強いポーズをした人は、支配性が高まり、ストレスが減少しています。
無力なポーズをした人は、支配性が下がり、ストレスが上昇しています。
たった2分間のポーズが、ホルモンの変化をもたらし、脳の状態を変えてしまったのです!
ここまで説明を聞けば、エイミーが冒頭に告げた言葉(「みなさんにひとつ無料で、技術不要の人生術をお教えしましょう。姿勢を2分間変えるだけで良いんです」)の意味がわかるでしょう。私達は姿勢を変えるという至極簡単な行為によって、精神の在り方を大きく変化させることができます。これを上手に活用できれば、私達はより良い精神状態で、日々の物事に対応できるでしょう。
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